
Portfolio

CLIENT: 瀧本泰士
CATEGORY: Graphic Design / Editorial Design / Art Direction / Print Design
日本画家・瀧本泰士氏の展覧会「TRACE」のダイレクトメール(DM)を制作しました。
今回のグラフィックデザインでは、展覧会の開催情報を伝えることに加え、瀧本氏の作品が生まれる背景や制作への姿勢を、印刷物そのものを通じて感じられることを目指しました。
瀧本氏の作品における特徴の一つが、自身が実際に登った山の地形を、等高線という形で日本画に取り入れていることです。
山を歩き、その土地の起伏や風景を身体で感じる。そして、その経験を等高線という視覚的な情報へと置き換え、日本画の表現へとつなげていく。
そこには、単に風景を描くという行為だけではなく、実際にその場所へ足を運び、自らの身体を通じて得た経験を作品に反映するという、独自の制作プロセスがあります。
今回のDMでは、こうした瀧本氏の作品の特徴に着目し、「触れることで、作家の歩いた軌跡をたどる」というコンセプトを設定しました。
デザインの中心となるのは、山の地形を表す等高線です。
通常、展覧会のDMでは、作品の写真や展覧会のメインビジュアルを大きく配置することが一般的です。しかし、今回の制作では、あえて作品画像を前面に出すのではなく、作品が生まれる背景にある等高線そのものをグラフィックの主役としました。
さらに、その等高線をインクによる印刷ではなく、エンボス加工によって表現しています。
紙の表面に凹凸をつけるエンボス加工は、色彩を使わずに形状を伝えることができる印刷技法です。今回のデザインでは、この特徴を生かし、等高線の形を紙の凹凸だけで表現しました。
色を載せず、光の当たり方によって浮かび上がる線の陰影と、指先で感じるわずかな起伏によって、山の地形を表現しています。
一見すると、淡いグレーの紙に控えめな模様が施されているように見えます。しかし、手に取って表面に触れることで、そこに細かな等高線が存在していることに気づきます。
指先で線をなぞるという行為は、瀧本氏が実際に山を歩き、地形を身体で感じてきた経験と重なります。
もちろん、紙の凹凸によって実際の登山体験を再現できるわけではありません。それでも、等高線に触れ、その形状を指でたどることで、作家が歩いた場所や、その土地の起伏を想像するきっかけをつくることはできると考えました。
今回のDMは、そうした疑似的な体験を通じて、作品への理解や関心を深めてもらうためのデザインです。
また、等高線というモチーフは、地図や地形を示すための情報であると同時に、独特のリズムや美しさを持つ線の集合でもあります。
曲線が幾重にも重なり、時には密集し、時には緩やかに広がる。その複雑な形状は、自然が長い時間をかけて生み出した地形の特徴を表しています。
今回のグラフィックでは、こうした等高線が持つ造形的な魅力を生かしながら、余計な装飾を加えず、線そのものが持つ表情を大切にしました。
色彩を使用しないことで、視覚的な情報を極力抑え、紙の質感や光によって生まれる陰影に意識が向くようにしています。
また、全体のカラーリングには落ち着いたグレーを採用しました。
白と黒の強いコントラストではなく、微妙な明暗の変化によって表情が生まれる色彩とすることで、エンボス加工による繊細な造形を引き立てています。
グラフィックとしての主張を抑えることは、単にシンプルなデザインを目指した結果ではありません。
作品の背景にある地形や、作家の身体的な経験を、見る人が自ら発見できるようにするための設計です。
DMのもう一方の面には、展覧会タイトルの「TRACE」、開催日時、会場、アクセスマップなどの情報を整理して配置しています。
表面の触覚的な表現に対して、情報面ではシンプルなタイポグラフィと明快なレイアウトを採用しました。
必要な情報を適切な大きさと余白で配置することで、展覧会の案内としての機能を確保しながら、全体の静かな印象を損なわない構成としています。
また、会場までのアクセスマップには細い線を用い、DM全体に見られる線の表現との調和を図りました。
等高線によって作家が歩いた山の地形を示し、アクセスマップによって鑑賞者がこれから向かう場所を示す。
用途は異なりますが、どちらも場所や道筋を線によって伝えるという共通点を持っています。
こうした要素を一つの印刷物の中に組み合わせることで、展覧会のタイトルである「TRACE(軌跡・痕跡)」ともつながるデザインを目指しました。
今回の制作で特に大切にしたのは、グラフィックデザインを視覚だけの表現として捉えないことです。
私たちは普段、ポスターやパンフレット、DMなどの印刷物を、主に目で見るものとして考えています。しかし、紙には厚さや手触りがあり、印刷や加工によって、視覚以外の感覚にも働きかけることができます。
今回のDMでは、エンボス加工を単なる装飾や高級感を演出するための技法として使用するのではなく、作家の制作背景を伝えるための表現手段として採用しました。
紙に凹凸をつけること自体が目的ではなく、なぜその加工が必要なのか、どのような体験につながるのかを考えたうえで、デザインと印刷技法を組み合わせています。
その結果、見る人が自ら手を伸ばし、触れてみたくなるような、静かな存在感を持つDMを目指しました。
展覧会の情報を知るだけでなく、実際に会場を訪れる前から、作家の作品世界に触れることができること。
それは、展覧会のDMを単なる告知媒体ではなく、作品への入口として機能させる試みでもあります。
株式会社Piece of CAKEでは、グラフィックデザインを情報を美しく整理するためだけのものではなく、伝える対象の背景や考え方を理解し、その価値を適切な方法で届けるためのコミュニケーションとして捉えています。
今回のプロジェクトにおいても、瀧本氏の作品が持つ特徴を読み解き、等高線というモチーフとエンボス加工という印刷技法を結びつけました。
写真や色彩によって作品を説明するのではなく、触れるという行為を通じて、作家の経験や制作への姿勢を想像してもらうこと。
見ることで知り、触れることで感じる。そして、指先で作家の歩いた軌跡をたどる。
日本画家・瀧本泰士氏の作品世界を、紙の質感と印刷加工によって表現した展覧会DMデザインです。
伝えたいことを整理し、伝わる形を考える。
グラフィックデザインは、情報を美しく配置するだけの仕事ではありません。誰に、何を、どのように伝えるのかを考え、見る人の理解や関心につながるコミュニケーションを設計することだと私たちは考えています。
Piece of CAKEでは、ポスター、パンフレット、冊子、広告、広報誌など、さまざまなグラフィックデザインに取り組んでいます。制作にあたっては、まず伝えるべき内容や背景を理解し、情報の優先順位や構成を整理することから始めます。
写真、タイポグラフィ、色彩、余白、レイアウト。それぞれの表現には役割があり、組み合わせによって情報の見え方や受け取られ方は大きく変わります。だからこそ、表面的な装飾に頼るのではなく、目的や内容に応じた適切な表現を選ぶことを大切にしています。
紙媒体ならではの質感や一覧性、編集によって生まれる情報の流れも、グラフィックデザインの重要な要素です。伝えたいことが正しく届き、見る人の記憶や行動につながること。私たちは、情報と人との関係をつくるグラフィックデザインを目指しています。
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株式会社Piece of CAKE(ピースオブケイク)は、茨城県水戸市を拠点とするデザイン事務所です。グラフィックデザイン、Webサイト制作、ブランディング、映像制作などのクリエイティブ支援を行っています。また、自社メディア「Piece of CAKE Editorial View」にて、AIとデザインの最新動向を発信しています。ブランドのアイデンティティ構築やロゴ制作のご相談は、お気軽にお問い合わせください。
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